近年、ゲームやリアルタイムレンダリングの世界では「描画を一からすべて描く」のではなく、AIでフレームを補完・生成して性能を稼ぐ手法が急速に注目を集めています。Intelも自社のXeSS(Xe Super Sampling)ファミリーにフレーム生成(Frame Generation、以下 XeSS-FG/MFG)を組み込み、AppleはMetalFXにフレーム補間(Frame Interpolation)機能を導入しました。
本記事では両者の仕組み、対象プラットフォーム、画質と遅延(レイテンシ)への影響、開発者導入の容易さ、そして「実際の体験」で何が変わるのかを、公開情報をもとにわかりやすく比較します。
まず用語整理 — 「フレーム生成」と「フレーム補間」は同じ?
業界で使われる「フレーム生成」や「フレーム補間」はしばしば混同されますが、本質的には近い目的(より高いフレームレート、より滑らかな表示)を持ちます。多くの実装は「2つの実フレームの間にAIで中間フレームを合成する」という手法を取ります。
Intelが呼ぶ「Frame Generation(FG)」や「Multi-Frame Generation(MFG)」、AppleのMetalFXが提供する「Frame Interpolation」はいずれも「実フレームを増やして見かけ上のFPSを上げる」方向の技術です。違いは主に実装場所(GPUハードウェアのアクセラレーションの有無)、使う学習モデルの形、そしてプラットフォーム統合の仕方にあります。
Intel(XeSS-FG / XeSS 3 / MFG)の特徴
IntelはXeSS(アップスケーリング)を進化させ、フレーム生成を組み合わせる方向で技術を公開しています。XeSS Frame Generation(XeSS-FG)は、既存のXeSSアップスケーラーにフレーム生成を追加する形で、AIモデルを使って中間フレームを生成し、高い見かけ上のFPSを目指すものです。
最新の発表やSDK更新では、XeSSの次世代(XeSS 3や「MFG」と呼ばれるマルチフレーム生成)に関する記載が出てきており、Intelは将来のArc世代やモバイル向けの統合(Panther Lake世代など)を見越した計画を示しています。
主なポイント(Intel側)
ハードウェアアクセラレーションを活かすことで高性能を狙う設計。Arc系のXMXユニット(AIエンジン)を活用することが想定されます。
SDKの配布により、非Intel製GPUでもShader Modelなどの要件を満たせば動かせるようなクロスベンダー対応の動きがある(XeSS SDK 2.1のクロスプラットフォーム化)。ただし非Intel GPUでは最適化差が出る可能性がある点は留意が必要です。
Intel側のロードマップでは、MFGや次世代Xeアーキテクチャと組み合わせることで、より広い世代の製品でフレーム生成を提供する方針が示唆されています(未発売世代への適用も含む)。
Apple(MetalFX フレーム補間)の特徴
AppleはMetal APIの拡張としてMetalFXにフレーム補間(Frame Interpolation)およびデノイジングなどを導入しました。MetalFXはMetalを通じてAppleシリコン(および統合GPUを持つAppleデバイス)上で高効率に動作するように設計されており、開発者は比較的シンプルに既存レンダーパイプラインへ組み込めるようになっています。
WWDCなどで示された説明によれば、MetalFXのフレーム補間は「2つの入力フレームから中間フレームを生成」してフレームレートを安定化させる用途が想定されています。
主なポイント(Apple側)
Metalに深く統合されており、Appleプラットフォーム上で最適に動くようAPIが整備されている。開発者向けの導入ガイドやサンプルも公開されています。
AppleはMetalFX全体としてアップスケーリング、フレーム補間、デノイジングをセットで提供し、特にレイトレーシング/パストレーシングのリアルタイム表現を現実的にする点を強調しています。つまり「高画質処理」と「フレーム生成」を組み合わせて使う想定です。
技術的な違い(画質・レイテンシ・対応範囲)

画質
どちらもAIモデルでピクセルを予測して中間フレームを生成するため、動きの激しいシーンや被写体の重なり(オクルージョン)でアーティファクトが出るリスクは共通しています。ただし、学習モデルの設計(時系列情報の扱い方)やポストフィルタの有無、ハードウェア固有の最適化によって「見た目の自然さ」は差が出ます。
Intelは複数フレームを参照する「マルチフレーム生成(MFG)」の拡張を進めており、理論上は前後複数フレームを参照して安定した生成が可能になるため、うまく動けば動きの破綻は抑えられます。
レイテンシ(入力遅延)
フレーム生成は「描画済みのフレームを元に中間フレームを挿入」するため、本来のレンダリング時間を短縮してフレームレートを上げることができますが、入力遅延の観点では実装次第で有利にも不利にもなります。
Intelは低遅延モード(Xe Low Latency)などとの組み合わせで応答性向上を図る方針を示しており、AppleもMetalFXをMetalのパイプライン内へ緊密に統合することで遅延を抑える設計にしています。どちらが「短いか」は実機でのチューニング次第です。
対応範囲(プラットフォーム)
AppleのMetalFXはAppleのMetal対応デバイス(macOS/iOS/iPadOS上のAppleシリコン・統合GPU)向けに最適化されています。一方、Intelは自社Arc GPUのXMXハードウェアを活かす方向で開発している一方、SDKやドライバの工夫により非IntelGPUでも動作させる取り組みを進めています。つまり「広いハードウェアで使いたい」ならIntelのクロスベンダー施策は魅力ですが、AppleデバイスではMetalFXが最もシームレスに動きます。
開発者にとっての導入負荷
AppleはMetalに深く組み込む形でAPIを提供するため、Metal対応ゲームやエンジン(Metal用バックエンド)を持つ開発者には導入が比較的スムーズです。ドキュメントやWWDCセッションもあり、Appleプラットフォームでの統合事例が増えると予想されます。
一方IntelはSDK(XeSS SDK)を通して提供し、既存のレンダーパイプライン上にアップスケール+フレーム生成を組み込む形になります。SDKがクロスプラットフォーム/クロスGPUを目指しているため、PC向けや多数のGPUを想定した場合の適用がしやすく、コンソールやクラウドゲーミングなど多様な環境での採用が期待できます。ただし、最適化は各ハードウェア向けに個別に必要になる場面が出てくるでしょう。
ユーザー視点:何が変わるか
プレイヤーやクリエイターが最終的に気にするのは「体感の滑らかさ」「画質の自然さ」「入力遅延」です。実機テストが重要ですが、公開されている情報から言えることは次の通りです。
IntelのMFGは複数世代のGPUや今後のモバイルSoCに広く配布されれば、より安価なハードでも高リフレッシュ体験を実現しやすくなります。Appleは自社のMetal/ハードウェアを縦に最適化できるため、macOSやiPad/iPhone上で高効率かつ統合的に滑らかさを出せるメリットがあります。
注意点と今後のチェックポイント
実装による画質差:どの手法も高動きシーンでアーティファクトが出やすく、実際のゲームでの品質評価(サンプル画像・動画比較)が重要です。
遅延の最適化:特に競技的ゲームでは入出力遅延が重要になるため、フレーム生成を有効にしても総合的な応答性が落ちないかを確認する必要があります。
対応ゲーム数とSDK採用:技術があってもゲームが対応しなければ意味がないため、どれだけ早く主要タイトルが採用するかが鍵です。IntelはSDK側でクロスベンダー展開を狙い、Appleはプラットフォームでの普及を図ります。
結論:どちらが「優れている」のか?
一言で決めるのは難しく、用途とプラットフォーム次第です。AppleのMetalFXはAppleデバイスでの高い親和性と(Metalへの統合による)導入の容易さが魅力で、Appleシリコンを使うユーザーには自然で高効率な選択になります。
IntelのXeSS-FG / MFGは、多様なPCハードウェアに広げられる可能性と、ハードウェアアクセラレーション(XMXなど)を使った高性能化の余地があり、将来性と普及力という点で強みがあります。開発者はターゲットプラットフォームと優先する指標(画質重視か遅延重視か、あるいは幅広い互換性か)を元に採用を判断すると良いでしょう。

